顎関節症の治療・予後について
顎関節症の治療方法や、顎関節症の経過、顎関節症の予後などについて解説しています。
最新の論文や客観的データを踏まえての内容です。
「顎関節症について」のページでも述べましたが、顎関節症に対する考え方は、医院それぞれで異なります。
顎関節学会から見ても主観的でない内容を記したつもりです。内容は難解ですが、是非ご参考にしてくださいませ。
顎関節症の人は全員治療を行うべきなのですか?
スウェーデンのある研究論文が報告しています。
スウェーデンの67歳の63人を対象とした調査では、関節の雑音が認められた人は60%。(関節雑音:顎がカクカク鳴る)筋肉や関節を押さえて痛む人の割合は35%程度と報告されています。
(注:人種が違うのでこのデータを日本人にそのまま適用できるとはいえませんので参考に)
顎関節症の派生頻度は、他にも世界中で多数報告されています。
国民の60%も顎関節症を治療しなければならないの?
答えはノーです。
60%にも及ぶ顎関節に雑音のある人のほとんどはその症状を自覚しておらず、日常生活を送る上でも何ら支障をきたしていないのです。つまり、普通に会話が出来て、普通にお食事が出来る。
まとめ:
私は数年前、首が痛くなって整形外科のお医者さんにかかりました。
整形外科のお医者さんが私に言っていました。
「あなたの首には若干のヘルニアがあります」
私、「エー!!(涙)」
「誰でも多少はあるんですよ。多かれ少なかれズレはある」
幸い傷みが一時的だった私の首は無事機能しています。
顎関節症は、「状況によっては」放っておいても治る
病気と聞きました
例えば、皆さんが足を捻挫したとしましょう。
直ちに病院で加療しなければ治癒しない、なんてことはないでしょう。
ただし、症状が重篤な場合はこの限りでもないでしょう。
Okeson先生(米で超有名な先生)が中心となり出版した米国口腔顔面痛学会(AAOP)のガイドラインにおいて、顎関節症はself-limitting(自己制約型)な疾患と述べられています。
self-limitting(自己制約型)って何?
つまりある程度は、放っておいても勝手に治る病気であるということです。
勘違いのないように申しますが、必ずしも治療が不必要なわけではありません。
これらの考え方に対しては反論する学派も存在します。
実際にアメリカ人歯科医師と話した時に(okesonの野郎!)と言っているのを聞いたことがあります(苦笑)
また、日本顎関節学会も自己制約型の疾患であるという論文を出していますが、初期治療によって一年後の予後が改善するとの報告も挙げています。(日本顎関節学会ガイドラインより引用)
AAOP:American Academy of Orofacial Pain
口腔顔面痛学は英語でOrofacial Painと呼ばれています。顎関節症に伴う痛みや口腔顔面痛の分野において、米国口腔顔面痛学会(AAOP)は世界でもっとも権威のある学会です。
参考文献:
American Academy of Orofacial Pain,Okeson,J.,ed:Orofacial pain guidelines for assessmet,diagnosis and manegement,Quintessence,Chicago,1996,p 1?285.
顎関節症になると、肩こりや頭痛、顔面や全身のゆがみなどが
生じてくると聞いたことがあるんですが
顎関節症の随伴症状として、肩こり、難聴、めまい、頭痛などが挙げられています。しかし、肩こりは随伴症状としての頻度は高いが、無関係のことが多いのが事実です。
注:随伴症状とは、主症状に伴って発現し、主症状の軽減や消失に対応して軽減するものです。
顎関節症もあり、肩こりもあったとしましょう。随伴症状であれば、顎関節症の軽減に伴って消失します。
こういった、顎関節症に関連した随伴症状が発生する確率は、過去の報告によって差がありますが、約5%程度と頻度的には多くありません。
つまり、「顎関節症があなたの慢性的な頭痛の原因ですよ。」と言えば、とても非科学的な発現になります。
顎関節症と全身のゆがみなどとの関連を述べる報告や学会までありますが、世界的にみても研究の方法論としての信頼性の高い論文は見られず、現状でははっきりとしませんとしかお答えできません。
つまり科学的に言えば、「顎の歪みを放っておくと、あなたの全身が歪んでしまいますよ」と言うことはできません。
実際に顎関節症の随伴症状が著しい場合、耳鼻咽喉科や整形外科を受診し検査しても異常が認められることはほとんどありません。
では顎関節症の病因はいったいどういったものですか?
元東京医科歯科大学教授・藍稔先生の著書に良くまとまった表現があるので、噛み砕いて引用させていただきます。
噛み合わせなどの局所因子。
ストレスなどの精神的な因子。
これらが相互作用する多因子疾患です。
現在日本顎関節学会の見解においても、噛み合わせの異常があって、歯ぎしりを併発した場合のみ、噛み合わせが顎関節症の原因となり得るとの見解です。
噛み合わせの異常があっても、精神心理的な因子が小さい場合は発症しなかったり、
噛み合わせの異常が小さくても、精神心理的な因子が大きい場合は強い症状となり発症したり。
実際にわずか30ミクロン以下の噛み合わせの異常であっても、精神心理的な因子が大きい場合、
非常に強い症状となって発症することがあります。
他に挙げられる局所因子として、外力、不良習癖、過度の歯ぎしりなど。
過去の外傷が原因になることもあります。吹奏楽器奏者に顎関節症が多く見られることは事実です。
顎関節症に対する噛み合わせ治療は、どういった場合に
どのように行うのですか?
顎関節症が多因子疾患であるということを念頭に置いた上でのお話ですが、
問診や噛み合わせの検査、カウンセリング、マウスピース治療などを行った上で、噛み合わせに起因する顎関節症であるという診断がついた場合は、噛み合わせの合っていない「かぶせ物」等の再製作や噛み合わせの調整等を行います。
噛みあわせの調整は最初の段階から行いません。一旦歯を削れば、削った歯は元にもどりません。
顎関節症の治療方法はどういったものがあるのでしょうか?
精神心理学的因子に対するカウンセリング
問診などから得られた情報による不良習癖の除去(頬づえ癖、噛み締め癖など)
マウスピース治療(スプリントと呼ばれるマウスピースの就寝時装着)
薬物療法(痛み止め、筋弛緩剤などがありますが適用が限られています)
理学療法(温熱療法、超音波療法など)
顎運動訓練
関節鏡視下手術
開放手術
関節腔内洗浄療法
パンピングマニピュレーション
顎関節症の治療のゴールはなんですか?
治療のゴールは最大開口域が40mm以上で「痛み」と「日常生活支障」が無い状態です。最大開口域が35mm以上で、「痛み」と「日常生活支障」が軽度な場合は経過観察とします。
お口が4センチ以上開いて痛みが無ければ、自覚しないかする程度の関節雑音があっても日常で咀嚼したり会話したりするのに問題はありません。
関節雑音(アゴがカクカク鳴る)に対しては、世界中で様々なアプローチや治療法が試みられてきましたが、手術を含めどれも著効を示すものはありませんでした。
私の膝は過去のスポーツで、動かすとカクカク鳴ります。今現在は、普段歩いてても気にならないし、痛みもありません。手術しなくてすみました。このカクカクを治すためだけに手術はすべきでしょうか?
顎関節症は、大学病院などの専門外来を受診したほうが良いのでしょうか?
厚生労働省は病診連携を考慮した顎関節症のガイドラインの策定を進めています。日本顎関節症学会のガイドラインや日本補綴歯科学会のガイドラインにもありますが、重度の症状であれば、高次医療機関の専門外来を受診していただくことをお勧めします。受診していただいて、重度の症状であると診断した場合は、紹介状と当院で撮影した顎関節の4分割撮影レントゲンをお渡し紹介先の病院を受診していただくことになります。
地理上、大阪大学歯学部付属病院が主な紹介先になります。
顎関節症の治療に使用するマウスピース(スプリント)とは
どういったものが良いのですか、またどういったものですか?
はっきりと申し上げておきます。全歯接触型の硬い薄型のものが良いです。(ただし前歯のかみ合わせの当たりは奥歯に比べ若干弱くてもOKです)
柔らかいタイプ、約2ミリの厚みが標準ですが異常に分厚いものはお勧めしません。また前歯だけ接触しているもの、アゴを強制的に誘導するタイプのもの等がありますが、これらはどれもお勧めできません。これらのマウスピースは、逆効果であったり噛み合わせが動いてしまう場合があります。
世界的な標準は全歯接触型、硬い・薄型のものです。このマウスピース(スプリント)をスタビライゼーション型スプリントと呼びます。柔らかいマウスピースや標準よりかなり分厚いマウスピースを使用したケースを見かけますが、当院ではそのようなマウスピースは使用しません。
マウスピースの治療効果は主として咀嚼筋(筋肉)の疼痛緩和であったり、噛み合わせ的に言えば顎を楽な位置に持っていくことです。
またマウスピースを使用することにより、腰痛・疲労・不眠症・アトピー性皮膚炎・体のバランスなどが治るといったような過去の臨床研究論文は世界的に見てもありません。
こういったものを治す目的でないことははっきりとしています。
過去の報告にも、私の経験上も顎の関節の雑音(カクカク)は、スプリント治療では治りません。先ほども述べましたが、逆に関節の雑音は治さなくてもよいことがほとんどです。
またマウスピースは「歯ぎしり」を防止するものではありません。
マウスピースが歯ぎしりを止めるという歯科医院や考え方がありましたが、近年の論文では歯ぎしりを防止する効力はないというものがほとんどです。歯ぎしりをした時に、関節や筋肉に大きく負担がかからないようにするというのが、マウスピースの効用です。
当院では、歯ぎしりの防止のためだけにマウスピースを使用することはありません。
診療時間
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